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地方が面白くないって誰が言った? 飲食で変わる地方の未来⑤ 地方創生って一朝一夕の話ではありません


この記事は弊社代表・佐藤による時事通信社「地方行政」誌2020年8月31日号への寄稿の記事転載となります。



淡路島それは2008年から始まった物語です

 2020年7月23日、兵庫県の淡路島北部の郡家エリア、海に向かうホテルのテラスでこの原稿を書いています。
 梅雨明け間近、鼠色の空は思いのほか明るく、間もなくの夏の青空を予感させてくれています。
 我々の地方創生プロジェクト「淡路島活性化計画第2弾"KAMOME SLOW HOTEL"」本日オープンです。

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写真1   KAMOME SLOW HOTEL

 10年少し前、2008年秋ごろ、大阪市の中之島公園内におけるPFI(民間資金活用による社会資本整備)制度を使ったレストラン事業者公募が行われました。応募条件の一つに「地産地消」を提案に盛り込むことが含まれていました。我々自身はその少し前あたりから、市場を通さずさまざまな地域の生産者の方々との直接取引も始めていましたので、違和感なく地元大阪近郊および淡路島の生産物をふんだんに使ったイタリアン・フレンチの地産地消メニューを提案でき、それに加え、公園の中にあるレストランの役割とは一体どんなものなのだろうかという点をベースに思案し、応募しました。結果コンペティションに勝つことができ、2010年6月「ガーブ ウィークス」をオープンすることができました。
 営業を続けていく中で、特に淡路島チームとのパイプはどんどん太くなり、野菜農家、果樹園、漁業・畜産業者、食品製造加工業とさまざまな方々との深い関係性を築けるようになっていきました。
 本当に淡路産の食材は素晴らしく、地元の人たちにとっては普段食ゆえ「日常」なのでしょうけれど、外部から見れば、こんなに新鮮でおいしい物が安価で手に入るのはこの上なく素晴らしく、料理人やシェフから見れば「宝の島」であるということを遅ればせながらも改めて認識することになりました。
 以降、シェフたちと仕入れ担当役員を中心に、地元の生産者の方々との関係は次第に食材のつながりから人と人との絆へと発展していきました。加えて、東京における我々のレストラン店頭にて役所と連動した淡路島食材マルシェを約5年にわたり継続し、そのことで行政とのパイプも確立できていきました。食を通じて、地域の人々とつながる流れが生まれてきたのです。



2011年と2013年はターニングポイント

 の過程で2011年の東日本大震災と、2013年の2020年東京五輪・パラリンピック開催決定という二つの大きな出来事は、僕の事業全体の方向性を地方創生にシフトチェンジさせるきっかけになりました。ちょうど大阪伊丹空港への第2首都機能移転構想が議論されたりした頃です。国の機能の分散を今こそ具現化すべきと。
 都市中心部にあらゆることがあまりに集中し過ぎたとき、その機能はハイパー(超越した)効率性を身に付けると同時に、何か有事ともなれば再生不可能な巨大リスクをも背負うことになります。まさしく今回の新型コロナ感染症において「人口密集を避ける→『3密』を避ける」ことのみが、予防法のように話される事態もその一つのようです。そういう意味で、人が底なしの効率性や欲望を求めずに穏やかに心豊かに暮らすということをポイントに考えてみれば、当然地方に人々の心が向くことは想像に難くありません。住宅一つとっても東京中心部の家賃は、平均給与所得者ではもはや住みにくい価格になってしまっていますから。同時にこの連載を通じた僕の見解につながりますが「地方が面白くなければ、地方に行くということは結果、都落ちを意味することになってしまい」、最終的には幸福感につながらなくなってしまうのだとも考えました。そして、そうであるのなら我々が食を通して地方を面白くすればいいのだ! と徐々に覚悟していったのだと思います。
 2013年を過ぎた頃から、いよいよエリア探しを始めました。念頭に置いていたのは「今現在は忘れ去られほっておかれているが、僕たちの視線で見れば魅力たっぷり(つまりバッドロケーションの考え方ですね)であること」「ある程度の広さ(1000坪以上)のさら地もしくは古家付き土地があること」「拡張性があること......。つまり周辺に段階的に進めていける開発余地が残っていること」「食材および食の生産者に恵まれていること」「全く人がいないわけではないこと」「何より都会での日常と違う何かを持っていること」。
 以上のポイントを兼ね備えたエリア・物件を探し始めました。その時点ではまだ淡路島なんだろうなー、いや関東圏かなという感じでした。



淡路島、2016年、その時は来た

 その中で、以前から色々とお世話になっている会社の代表が行った「東京一極集中の危険性と地方創生!」というテーマの講演を聞かせていただきました。それは淡路島を舞台に、廃校の活用によるレストランやマルシェの開業から、土地をどんどん購入し、海沿いのビューポイントでのカフェやショップ、エンターテインメント従事者の雇用と発表の場づくり、農業促進......。数え上げればキリのないくらいの面白いことを実際行っているという話でした。
 講演会終了後、興奮気味の僕は早速その代表にコンタクトを試みました。
 さらにお話を聞き、すっかりその方の淡路島の開発計画に魅了されていった僕は思わず「何か一つ物件を僕にやらせてください!」とお願いしました。
 そうして出会ったのが淡路市郡家エリアの300坪強の土地でした。「ここは当面ウチではやる予定はないから、佐藤君がやるならこの土地譲るよ」......。そこは西海岸沿いの原っぱ。2016年秋のことでした。

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写真2  淡路市郡家(ガーブ コスタオレンジが完成する前の土地)

 前述のように淡路島に関心があった我々は、以前から数々の物件を見ていました。事実、その数年前に東海岸エリアで800坪程度の土地も購入していました。何かタイミングとでも言えばいいのか、せっかくの土地でしたが、ここだという確信がないままプロジェクトは進みませんでした。しかし西海岸の現地を視察し、その瞬間にイメージができました。沈む夕日の美しい最高のカフェをつくろう! 夕暮れの海岸線に佇み、胸をときめかせ決めました。我々の淡路島ストーリーの始まりです。



人は交通の便が良いからその施設に足を運ぶのでしょうか?

 もちろん、何事もトントン拍子に進むわけはありません。いよいよプロジェクトのキックオフミーティングになると、社内からも色々な意見が出てきます。もっともな理屈なのですが「電車もなく、近郊の神戸市からでも40㌔、大阪市からだと80㌔ある。こんな車でしか来られない所でワインやビールを売ることはできません。レストランとして成立するのでしょうか?」と、問い掛けられました。
 確かに飲酒運転など論外な話。けれど僕はこう答えます。「そんなことは気にしなくていい‼」
 どういうことでしょうか? お客さまが勝手に飲酒運転しても、こちらは知らないとでもいうのでしょうか? そんなわけはありません。2007年の改正道路交通法施行後は、酒類の提供者にも「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられますし、そんなことより人としてあり得ない話ですよね。
 それでは、なぜ気にしなくていいのでしょうか? 現在進められている、もしくは今後策定される地方創生プロジェクトの与件にされがちな「交通の便」の呪縛から皆さんを解放させていただくためにも書き進めます。
 人は交通の便が良いからというだけで、その施設に足を運ぶのでしょうか?
 もちろん、そういうことも日常の中にはあります。本当はAという施設に行きたいのだけれど、駅から遠いので仕方なく近場のBに行く、というようなことですよね。これは当然起こります。けれど、Aに行く目的の物や事がBになければAに行くしかないですよね。つまり、遠くてもわざわざ足を運ばざるを得ないということです。わざわざ足を運ぶからこそ、余計に値打ちがあることもあるのです。「秘境の温泉」などはそういうことですよね。淡路島に話を戻すと、初めて訪れた一面に広がる大海原とその日の夕日は、僕が過去に見た中でも有数の美しさでした。誰しもこの夕日を友人や恋人、家族や仲間に見せたいと思うはずだと! 自分が運転を担当するので、お酒を飲みたい人も連れて行ってあげたい。もしくはお酒の飲めないあの人に声を掛けて運転してもらおう! いつもの仲間なら、じゃんけんで負けた者が運転すればいい。何より都会では、こんな水平線に沈む夕日を見ることなどできないのですから。

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写真3  ガーブ コスタオレンジ テラス席から眺める夕日

 我々提供者(供給サイド)は、利用者(需要サイド)がどんな手段を使っても手に入れたいと望むものを提供することに徹すればいいのです。そこに至る手段・方法は利用者に任せておく。つまり今回なら、我々は「夕日が最高に綺麗で、料理がおいしくて、楽しくて、それでいて安くてどんなことをしてでも行きたくなるレストラン」をつくることに集中して、その交通手段を知る必要はないのです。もちろん、これは全く道路さえない原野や南海の孤島という特殊な場所の話をしているのではありません。通常の手段でたどり着ける場合の話です。



駐車場確保も地元の方々の思いを乗せて

 社内において、さらに出てくる指摘事項を一つ一つ検証しながらプランニングを進めていきました。
 交通手段は、まず第1段階で前述のように車を想定しました。つまりそのためには、席数の約半分程度の駐車台数のスペースを確保しなければなりません。図面を引いていくと店内とテラス合わせて最大250席のカフェができそうです。であるならば、120台程度の駐車スペースが必要だということになります。前述の300坪では、全面駐車場にしても間に合いません。基本的に車でしか来られない店舗において、席数に見合う駐車場を確保できないまま商売を始めてはなりません。最大ピーク時に交通渋滞、下手をすれば事故やトラブルにつながります。近隣において、最低1000坪程度の駐車場用地確保が必達事項となりました。けれども、そう簡単に土地が手に入るはずもありません。日々苦悩する我々を救ってくださったのは、生産者はじめ地元の方々でした。我々の考えを理解し、「地域のためになる」と共に動いていただけるという幸運に恵まれました。もともと淡路島の郡家エリアは1995年の阪神淡路大震災以降、特に1998年の明石海峡大橋供用開始後、過疎が進行したエリアでした。「ほったらかしにされていたこの場所に、エネルギーを再び吹き込んでくれるであろうあなたたちには協力しよう」と。そして、思案しながら最終図面を引いている最中に道を挟んだ店舗の向かい側、しっかり満席でも対応十分な駐車場敷地を手に入れることができました。これもひとえに我々という外部の人間を受け入れてくださった地元の方々の思いのおかげです。
 そうして出来上がった我々の淡路島1号店「ガーブ コスタ オレンジ」は、2019年4月に開業以来、順調もしくは想定以上の業績で推移しています。「冬季の海西風は激しく、営業自体も難しいよ」と地元の方にアドバイスを頂きましたが、休業もすることなく何とかしのぐことができました。まだまだ開業後1年余り。そのうち半年はコロナ禍ではありますが、初年度は約9・7万人の方にお越しいただき、晴れた暖かい日なら我々の全国にあるレストランの中で1位の売り上げとなる日も出てきました。周辺に住んでいる方以外誰も歩かず、車が通過するだけの野の道がそれだけの人と駐車車両で全く別の光景となったのです。「1軒のカフェ(我々はレストランと同義で使っています)で街が変わる・地域が変わる」を実証できました。

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写真4  ガーブ コスタオレンジに並ぶお客さま(2019年5月)



孤独の一歩踏み出せば仲間が増える

 もちろん地方創生とうたっている以上、カフェ1軒では話になりません。前述のエリア選択の条件として「拡張性があること」を挙げている意味です。そしてここが大規模開発と一線を画する手法です。
 じわじわと時間をかけ進めていくという、それこそ本来の街が科学反応しながら進化していくプロセスに近いやり方です。周辺の土地情報もどんどん頂けるようになりました。我々のことを「近視眼的に収益を考える企業」ではないとして、心を開いてくださったのです。またその繁盛ぶりを確認して、地元の地方銀行や地方創生ファンドも動きだし、第2弾のプロジェクト(本日オープンのホテルのことです)のファイナンス(財務)を担ってくださいました。
 さらに眠った土地、忘れ去られていた土地の持ち主を根気よく探し出し、説得してくれる、まさしく我々のサポーターも現れました。「あなたたちに懸けている!」と用地のみならず、生産者、行政マン、地元有力者をどんどんつないでいってくれます。余所者を、仲間として認め始めてくださったのです。先日も家を売ってくださった地主さんの自宅に契約前に伺い、上がり込み、亡くなったご主人の仏壇をお参りすることになりました。仏前で僕は手を合わせ呟きました。「大事な思い出の土地をお譲りいただきました。皆さんに喜んでいただけるもの、地元の方々に愛され、訪れる多くの方々に喜んでいただけるものをつくります。見守っていてください」
 地方創生とは、地方に巨額の予算をつぎ込み大開発を行うことではないのだ! 改めて思いを強くしました。地方創生とは余所者、馬鹿者が覚悟の投資を行い、地元の方々の思いを紡ぎ合わせ、それが共感を生み、進めていく一つの叙情詩なのだと。
 そんな思いの結実として今この原稿を書いている「KAMOME SLOW HOTEL」も生まれました。
 わずか16室のホテルですが、我々なりに思いを込めています。
 全室オーシャンフロント、ベランダ付き、海沿いのテラスにスイミングプールと円形ファイヤースペースに加え、朝食が最高においしいことです(必ず特製淡路産玉ネギスープが付きます)。スタイルはB&B(Bed & Breakfast)ではなくO&B(Ocean & Breakfast)としました。
 そして叙情詩はまだまだ続きます。前述の流れで周辺の土地約2㌶も既に購入もしくは借地契約ができ、第3弾、第4弾のプロジェクトも現在進行中です。
 そこでのプランは間違いなくアフターコロナ、もしくはウィズコロナを踏まえたものになるでしょう。
 単にレストラン来訪者や宿泊客を増やすだけでは地方創生とは呼べません。
 我々が紹介することで農業に従事したいと考える若者が移住を希望したり、子どもたちを伸び伸びとした環境で遊ばせてあげたいという家族や、我々のプロジェクトを手伝いたいと考えるクリエーターやアーティスト、そんな方々が住んだりすることができる施設も必要です。中古住宅や旅館の購入も進めています。
 晴れ渡る青空、穏やかな海も時に荒れ狂い牙をむきます。いいことばかりではないけれど、地方創生は人と人がより豊かに暮らせるようにできるプロジェクトなのだと思います。
 人が住みたい! 人が笑顔になれる! そんなまちづくりのことなのだと思います。
 我々飲食事業者が、一歩目の覚悟の投資を行う重要なキーマンであると思い進みます。
 現在、淡路島は人口約13万人。過去最大で昭和の半ばに20万人超といわれた人口は今も減少が続いていますが、逆に人口増が度を過ぎるとさまざまな問題が生じるともいわれます、主に生活インフラのパンクと環境問題が大きいと考えられますが、これからのテクノロジーはそこを解決していってくれるのではないだろうかと密かに期待しています。
 海水の淡水化も、かなりの低コスト化が実現してきました。
 我々の淡路島活性化計画も基本的にSDGs(持続可能な開発目標)の考え方に共感し、一つずつ実現していきたいと考えています。
 地域内の再生可能エネルギー、残念ながら大量に出てしまう残飯のバイオ分解、間伐材による薪暖房、雨水の生活用水としての活用、当然として地産地消......。これらは、来年以降となる第3弾で議論される内容です。法律や条例も改正が必要とされるでしょう。
 この国の、大袈裟に言えば地球の未来を左右する環境問題をないがしろにしての開発は、もはや社会悪です。
 人の心を紡ぎ、最新のテクノロジーを導入することで漸次、お目見えできるはずです。
 コロナ禍の事業への影響に負けず進んでまいります。地方行政従事者の方々、もし何かあればお声をお掛けください。
 我々は進む覚悟をしています。この国と地方の未来を思い!
 いよいよ次回は最終回です。